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街の輝きを撮る〜ストリートフォトグラフィーの魅力と掟

街の輝きを撮る

ストリートフォトグラフィーの魅力

街は実に多くの輝きであふれている。
そう気づかせてくれるのが、ストリートフォトグラファーたちの作品だ。

※ストリートフォトグラフィー(Street Photography):路上スナップ、スナップショット、ストリートフォト、ストリートスナップなど呼び方はいろいろ。

パリを行き交う人々をユーモアと慎みをもって切り取ったローベル・ドアノー(僕はドアノーが一番好き)。
東京下町から秋田の農村までそこで生きる人々の輝きを捉えた木村伊兵衛。
アンリ・カルティエ=ブレッソン。ロバート・フランク。ウィリアム・クライン。エリオット・アーウィット。森山大道。
ストリートをさまよい、名作を残した写真家は数多くいる。

彼らの作品は、街と人々がつくりだす生々しい空気を半永久的に保存し、次の時代へとその結晶を伝えていく。
さらには、道行くそれぞれの人にそれぞれのかけがえのない人生が存在し、私たちはそれらに共感することができるんだという大事なことを教えてくれる。
真に優れたストリートフォトグラフィーは“人類への愛”そのものだと僕は思う。

しかし今、ストリートフォトグラフィーはその存在を脅かされつつある。
なぜなら、ストリートフォトグラフィーはその醍醐味として、より自然でありのままの街の姿を撮ろうとするため、被写体の承諾を得ない場合が多々あり、プライバシーに関する意識の高まりや、一部の悪意をもってカメラを使う人間の犯罪行為によって、こうした撮影手法は悪として認識されかねない事態になってきたからだ。

 

肖像権をめぐる各国の対応

肖像権に関する対応には、立法で対応する国と判例で対応する国がある。
新たな法律をつくり解決を試みたのはドイツが先駆けで、多くの国がこれに追随している。
一方、新たな法律をつくらず、裁判所の判断の集積で法体系を作っていったのがフランスや日本などの少数の国。

ちなみにドイツでは、撮影に関しては被写体の承諾は必要なく、公表するときに承諾が必要になる。
ただし、風景の一部として写っている人の肖像や芸術作品としての肖像の頒布・展示は承諾がなくても公表できるとなっている。
一方、肖像に対する所有権的な感覚が強いといわれるフランスでは、被写体の承諾なく撮影することや公表することは違法とするルールができあがっている。
アメリカは判例主義の国だが、写真については部分的に法律を作っている州がある。

肖像権をめぐっては、何を重視するのか国や社会の価値観によるところが大きいのだろう。

(さらに知りたい人は、『勝手に撮るな!肖像権がある!増補版』を読んでみてください。2006年発行の本なので、一部状況が変わっているところがあるかもしれません。)

 

撮影をめぐる日本での権利と判例

日本でのストリートフォトグラフィーに関わる決まりごとや注意すべきことについて、要点をざっと書き出してみた。

まず、撮影者は、憲法21条に明記してある「表現の自由」により、撮影という表現活動が保障されている。
公権力による検閲を受けず、自由に発表や報道を行う権利は民主主義を支える基盤である。

一方、肖像権に関することを法律で明文化したものは存在せず、刑法などにより刑事上の責任が問われることはない。
しかし、撮られた側が民事訴訟を起こせば、人格権、財産権の侵害が民法の一般原則に基づいて判断され、差止請求や損害賠償請求が認められた判例がある。

人格権に基づく肖像権(プライバシーの権利)とは、何人も、その容貌や姿態をみだりに撮影されない人格的利益および自己の容貌や姿態を撮影した写真をみだりに公表されない人格的利益を有しているということで、これは幸福追求権(憲法13条)を根拠としている。

財産権に基づく肖像権(パブリシティー権)とは、著名人の肖像を利用することで商品の販売が促進されるなどの経済的効果が生み出されるような場合(顧客吸引力が発生する場合)に、著名人が第三者に対して自己の肖像の使用を許諾・禁止することによって、その経済的利益・価値を守る権利。財産権は憲法29条で保障されている。
営利目的で写真を使い、その写真に写った肖像に顧客吸引力があると判断されれば、たとえ被写体が著名人でなく一般人でもパブリシティー権が発生し、承諾を得ていないということで訴訟になれば損害賠償を負うことになるかもしれない。

私有地や私有財産の撮影とその写真の公表は、所有者の承諾を原則とする。
ただし、立ち入りを認められた私有地の場合、撮影を禁じる意思表示がなければ、撮影については承諾しているものとみなされる。

口頭での承諾の場合、黙示の承諾も有効とされている。
そのためには、撮影者は被写体が認識できる形でカメラを構えて、諾否のいとまを与える必要がある。
さらに、撮影者が報道機関や団体の広報の役割を果たすことを示す腕章等を着用していれば、公表についての承認があったものとみなされる。

民事訴訟になった場合の裁判では、撮影者側の表現の自由と撮られた側の肖像権のバランスが考慮される。
最高裁が2005年11月10月の裁判で「被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の承諾なくみだりに撮影されない人格的利益の侵害が社会的生活上の受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決めるべきである」という判断基準を示した。
つまり、撮影や公表により、撮影された者が被った人格的利益の損害が「社会生活上、受任すべき限度内か否か」という基準が鍵となり、どちらの主張が認められるかはケースバイケースになってくる。
東京地裁は平成17年9月27日の裁判で、公共の場所を単に歩いている容姿は社会生活上受忍の限度を超えないという判断を示した。

民事訴訟になり、相手が弁護士を立てた場合、概してこちらも弁護士に依頼することになり、弁護士費用がかかる。
勝訴したとしても弁護士費用は自己負担。

相手の社会的名誉を陥れるような行為は名誉棄損罪(親告罪)、卑わいな撮影の仕方をした場合は都道府県の迷惑防止条例違反(非親告罪)として刑事事件に発展する。

芸術作品の販売が営利目的にあたるかどうか日本の判例を僕の力不足でまだ見つけ出していないのだが(わかる人いたら教えてください!)、アメリカでは写真家のフィリップ=ロルカ・ディコルシアが無許可で一般人の肖像の撮影・作品販売を行ったことで訴えられた件で、写真家としての経歴や展示されていたギャラリーという場所の性格、限定された販売数などを根拠に、作品は表現の自由の保障を受ける「アート」であるからプライバシーの侵害はないとなった判例がある。

 

僕なりのストリートフォトグラフィーの掟

これまでの判例を読み解いて、2017年5月現在の僕なりの掟をまとめてみた。
あくまでこれは僕個人の解釈であり、あなたにとってはどうなのか考えてみていただきたい。

1. 芸術作品の制作を目的として撮影・公表する

2. 撮影が禁止されている場所や私的な場所でないことを確認し撮影する

3. 人間の尊厳を大切ににする
・自分が撮られて嫌だなと思うシーンや興味本位で被写体を貶めるような撮り方をしない。
・人間への愛(人類愛)や共感をもって撮影する。
・撮らせていただいているという感謝の気持ちを忘れない。

4. 撮影目的を明らかにして誠意をもって対応する
・清潔な身なりで堂々とカメラを構え、被写体に不信感を与えるような撮影方法はしない。
・風景の一部として人々が写りこむ場合はいちいち承諾を得ないが、特定の人物に焦点を当てて撮る場合は、事前あるいは事後に撮影意図を説明し承諾を得る。
・事後でも承諾を得るのが不可能な状況であったり、被写体から削除の希望があった場合は、よほど社会的意義のある写真でない限り削除する。
・承諾を得ていない写真であっても、よほど社会的意義があり、弁護士費用をかけて民事訴訟で争うほど価値のある写真だと自分が思う場合は責任を持って公表する。

ちなみに、これまでこの掟で僕がストリートで撮っていてトラブルなったことは幸いない。

判例で対応する日本での肖像権は、ケースバイケースになってくるから難しいところもあるけれど、表現者あるいはそれに携わる者がストリートフォトグラフィーはひとつの芸術であり文化を伝えていく重要な手段であると、丁寧に辛抱強く社会に説明していく姿勢が大切なんじゃないかと思う。

(ここが抜けているとか、私ははこんな掟を定めて撮っているという方がいらっしゃったらぜひコメント欄などで教えてください。)

 

おまけ

2016年8月に日本で公開されたドキュメンタリー映画 『フォトグラファーズ・イン・ニューヨーク』はストリートフォトグラフィーの真髄が語られていておすすめ。
刺激の強い描写もあるけど。。

様々なタイプのストリートフォトグラファーがいて、それぞれ信念をもって活動していることがわかる。

僕個人としては、正直ちょっと共感できないような撮り方をしている写真家もいるし、すごく共感できるなあという哲学をもって撮っている写真家もいる(ジョエル・マイエロウィッツの言葉は響く!)。

 

参考文献

村上孝止『勝手に撮るな!肖像権がある!増補版』青弓社 2006年
日本写真家協会『スナップ写真のルールとマナー』朝日新聞出版 2007年
横木安良夫『横木安良夫流スナップショット』枻出版社 2008年
日本写真家協会『SNS時代の写真ルールとマナー』朝日新聞出版 2016年

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